ブータンから見た日本仏教

ブータンから見た日本仏教    菊地 豊

ブータンは、チベット仏教を国教とする仏教国です。そのため人々の信仰は熱く、全て仏教の教えに従って社会が動いています。ブータン人の七十五%は生まれながらの仏教徒で残りの二十五%の大半はネパール語を話すヒンドゥー教徒です。ブータンでは男の子が生まれると兄弟の一人をお寺に預け僧侶にする習慣が現在も残っています。身近に僧侶が必ずいるのがブータンの社会です。私の友達は十人兄弟で二名が僧侶になっています。

ブータンを訪れて日本の仏教と違うと思うことが沢山あります。例えばお寺での写真撮影は禁じられています。日本では、拝観料を払って仏像を見学しますが、ブータンでは、仏像は拝むもので写真を撮ったりするものではないと考えられています。

ブータンでは、妻帯僧がいません。ブータンの人は、日本の僧侶は妻帯しているのですか?とよく聞かれます。ブータン人は、僧侶は、妻帯せずに僧院に住むのが僧侶であり、妻帯して家族を持ったら普通の在家信者と同じではないかと考えています。日本の僧侶はゴムチェン(在家修行者)でしかなくケロン(出家僧)ではないと言います。出家主義の立場からみると日本の仏教は戒律が欠如した仏教としか映らないようです。

ブータンの農家を訪ねると仏間に案内されて寝泊まりします。一番いい部屋は仏間であり、お客は仏間に泊める習慣があります。日本でも昔はブータンと同じで、仏間に大事な客を泊めたそうです。仏間には大きな仏壇があり、ブッダやブータンに仏教を伝来した高僧グル・リンポチェやパドマサンババの銅像を飾ります。日本のように先祖の位牌はありません。毎朝その家の当主がバターランプを灯し聖水を捧げお祈りをします。

  ブータンの葬式ですが、昔はチベットと同じ様に鳥葬という葬式のスタイルがあったそうです。しかし今はほとんど見られなく近くの火葬場で荼毘にします。ブータンのお葬式は、「悪趣清浄タントラ」と略称される経典に基いて執り行われます。この経典には遺体を火葬した後の遺骨、遺灰の取扱が記されており、もっとも由緒正しい葬儀規定とみなされ、この経典に基いた法要が継承されています。

ブータンでは、この経典に基いて遺骨遺灰を川に流すのではなく、それを砕いて粉にし粘土と混ぜてツァツァと呼ばれる小さな仏塔を作り、それをツァカンと呼ばれる奉納堂か、それが無ければ自然の洞窟に納めます。特に高い山に造られた僧院などには聖地としてツァツァを奉納します。ツァツァは長い年月をかけて自然に帰っていくのでお墓のようなものはありません。葬儀の後、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌といった法事はなく、輪廻転生を信ずるブータン人は「人間はすでにどこかで生まれ変わっているからいまさら追善供養の法要でもないだろう」と言います。仏教の輪廻思想からしたら、死後最長四十九日間で次の生まれ変わりが決まるので、その間できるだけ追善行為をすれば、個人によりよい生まれ変わりが期待できると信じているからです。

日本ではお葬式やお墓の問題がよくテレビや雑誌で報道されています。ブータンのように輪廻転生の教えを取り入れたら、死後残された家族に多大な負担をかけるお墓や葬儀の問題が解決するのではないでしょうか。