清水愛子ブータン紀行8 絶壁にへばりつくように建てられた僧院への登山は、私のブータン旅行の3つの目的の一つであった。   

3回目の感涙は、タクツアン僧院へのトレツキングの時。

タクツアンは、ブータン人の信仰の最も熱烈な対象となる場所と言われている。ブータンに仏教を広めたのはパドマサンババグル・リンポテチェ)である。彼が8世紀に初めて西ブータンを訪れた時、虎の背中に乗って飛んで来たと言われている。その聖地がタクツァン(虎のねぐら)と呼ばれている。

この日(7月3日)も沢山の老若男女が登山していた。絶壁にへばりつくように建てられた僧院への登山は、私のブータン旅行の三つの目的の一つであった。

前日まで快調だった体調が、途中から猛烈な吐き気と腹痛に襲われだした。はじめは呼吸を整えたり自己流のリラックス体操をしたりして登山したが、吐き気も腹痛も増すばかり。同行者に迷惑をかけられない思いで一人休憩所で休んだ。

情けない気持ちだったが、しばらく休憩していたら体調が回復し、一人ゆっくりゆっくり登っていった。

私よリひと足先に登ったNさん、Hさんそしてタクツァン僧院まで登った帰りの夫とNさんの夫と再会。それまで霧につつまれていたタクツァン僧院が目前に広がった時の感動と再会の喜びと「よくぞここまで登ってきたなあ」の感激とでまたまた涙があふれた。

僧院までは行けなかったものの僧院が同じ高さに見えた位置に立つことが出来たということは、3,100メートル以上の高さに今立ったということを意味したのだ。

Hさんいわく「人生の中で今一番高い所に立ったので。そしてルンタ(旗)に父母や夫の思いを伝えることができたんだ」と。Hさんの思いにまた涙が溢れた。

下山途中でたくさんのマニ車(回すと功徳のある経典が納めている筒)を回し、ルンタへの思いを加味して行きのつらさははすっ飛び、帰りは足早に下山した。異次元の世界を体験した喜びに包まれた。静かに降る小雨に濡れながら私の汚れが洗い流されてように思い、ちょっぴりピュアな72歳の自分を感じた。

下山後、どうしてあんなに吐き気と腹痛に悩まされたのか考えた。理由が二つ浮かんだ。一つは、数年前に高山病にもならずにしっかりと登ったので、今回も大丈夫だ、という過信があったこと。

もう1つは私くしたちの前を登山者を乗せた馬がポタポタとうんちをし、そのにおいがきになり鼻を摘んで登ったので少々酸素不足にたったこと。(食べる酸素は持参)。

ここでの教訓は「過信は禁物。においに敏感なる体質改善(普段からにおいに敏感だから)の必要性」である。

2016年7月ブータンの小学に鍵盤ハーモニカを寄贈するためブータンを訪れた時の紀行文です。

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